GPSと携帯接続を持つ大シェアの携帯デバイスにOS組み込みの無線LAN測位を持たせることの賢さについて

Apple の Core Location はとても優秀なサービスモデルなのではないかという考察です。

無線LAN測位の三大データベース

無線LAN測位というものがあります。無線LAN測位は、無線LANの電波がそれほど遠くまでは届かないことを積極的に利用していると思っています。その他の測位と違い、無線LAN測位は、測位というよりはむしろ、無線LAN基地局からの位置クッキーをバーチャルに実現する技術だと思います。無線LAN測位の能力を測位可能な面積で語ることは、実はあまり的を得ていません。
というのは、無線LAN測位を行うデバイスは、無線LANを使って何らかのインターネットサービスを受けることが前提であると考えるほうが常識的であるからです。インターネットサービスの付加サービスとして、現在位置クッキーを受け取ることができる、というのが無線LAN測位の本質なのだと思います。
無線LAN測位のためには、基地局の情報と基地局の位置を結びつけるデータベースが必要ですが、現在世の中には次の3つのデータベースがあるようです。

  • Skyhook Wireless のデータベース
  • Google のデータベース
  • Koozyt のデータベース

Shyhook Wireless 社と Koozyt 社はそれぞれのサイトで同じような様式でプレスリリースを公開していますので、プレスリリースを分析することで両者のビジネスの方向性の違いが良く観察できそうですが、その話題についてはあとで書くことにします。今回は無線LAN測位用のデータベースをこの3つに同定したことにして、それぞれの性格を分析します。

無線LAN測位用のデータベースについて

Skyhook Wireless のデータベース

AppleiPhoneiPod touch の Core Location の裏で使われています。
Snow Leopard でも Core Location が使えるようになったようです(http://www.apple.com/jp/macosx/refinements/)。
iPhone アプリ内の測位は、Google Earth であろうが Core Location を使うのが原則のようです*1

Google のデータベース

https://services.google.com/fb/forms/wifibugs/ にある Google's WiFi Location database です。
Google Latitude などで使われていると思います。Firefox の Geolocation API のデフォルトの位置情報サービスプロバイダが Google Location Service であるそう*2なので、デスクトップ FirefoxGoogle がおさえています。Netbook 方面などには強いのかもしれません。

Koozyt のデータベース

PlaceEngine のデータベースで、国内では十分に紹介されているようですので今回は説明は省略します。

無線LAN測位のデータベースのオープンデータ化はあるか

基地局アイデンティティは、個人のアイデンティティに非常に近いため、「誰でも自由にフルアクセスできるデータベース」として無線LAN測位データベースを構築することは簡単ではないでしょう。無線LAN測位のデータベースのオープンデータ化は難しいと思います。

無線LAN測位のデータベースを成長させるためには、iPhone を抱えていることは大きいアドバンテージ

無線LAN測位のデータベースを成長させるには、未知の基地局を同定したときに、現在の位置が分かり、かつ既存の接続が確保されていて、(未知の基地局の情報+現在の位置)をデータベースに登録することができれば嬉しいです。しかし、このような環境を実現することは簡単ではありません。
iPhone はこの環境を実現することができる数少ないデバイスです。iPhone で現時点で実際にこのような収集を行っているかどうかは分かりませんが、iPhoneSLA 4. (b) *3には、次のようなことができるように書かれています。

  • Appleとそのパートナー及びライセンシーは位置情報を送信し、収集し、処理し、使用することができる。
  • Appleとそのパートナー及びライセンシーは収集した位置情報を、個人を特定しない範囲で、位置情報に基づく製品およびラービスを提供するために使用することができる。
  • iPhone の位置情報サービスを使用することで、上記に同意し承諾したことになる。

つまり、Skyhook は iPhone から得られた情報を彼らのデータベースに反映する権利を持っていることになります。

Core Location は、自分の立ち位置を利用して自分のニッチからは他のデータベースを排除可能かもしれない

無線LAN測位のデータベースは互いを排除するか合併することを求め、同一アプリの中で共存するということは難しいと思います。複数の測位サービスを使うアプリからの通信から、一方のデータベースを用いて得た位置を他方のデータベースに反映できてしまう可能性があるからです。
Core Location は OS 付属のサービスであり、iPhone に関してはアプリにレビュープロセスがあります。そのため、Apple は「iPhone OS 付属のサービスである Core Location と重複するため」といった理由で、その他の無線LAN測位サービスを拒否できる可能性があるのではないかと思います。
ただ、実際にはそのような拒否は行われておらず、iPhone アプリの「Yahoo! 地図」では Core Location と PlaceEngine が併用されています*4

結論

Core Location は良くできたサービスモデルだと思います。
Shyhook はもっと恐れられてよい会社だと思います。
また、GoogleAppleSony の関係が、この分野でも再現されているような気もします。

*1:自宅の基地局が海外で Skyhook に捕まってしまったので、自宅を Core Location で測位すると海外に位置同定されてしまう状態になっており、自宅は Skyhook を使ったかどうか非常に分かりやすい状態にあります。Google Earth (iPhone) で測位される位置は、Google Location Service で測位される国内の位置ではなく、Google Maps (iPhone) 等と同じく Shyhook が返す海外の位置でした。

*2:http://mozilla.jp/firefox/features/geolocation/

*3:http://www.apple.com/legal/sla/docs/iphone.pdf。サイズの大きなPDFですので注意。

*4:自宅では Core Location だけが測位に成功するので、 PlaceEngine が正常に動作することは確認できていません。