兵要測量軌典 第4部 第6章 細部測量

hfu2007-10-28

初代陸地測量部長の小菅智淵はどのような人だったのでしょうか。それを知るために、小菅が書いた文章を書き下してみました。

書き下し

第四部 すべて備考 細部測量中に出会う事柄について後日の参考に供すべきものを記す。
第六章 細部測量
一道線を完成してこれを点検するやいなや直ちにこの道線に依託すべき細部を測図すべし。

兵要測量軌典. 小地測量之部 - 国立国会図書館デジタルコレクション

細部は一二の歩度測量の補助により目測にてこれを図するを常とす。図の尺に比すれば歩度測量は十分精密なるものなり。
細部を測量するには光線法、縦横法及び準線法を用い、及び時として交会法及び立線法をもちいることあり。光線法は未定点に設ける測点によりその周囲にある諸点の影を測図するに用いる。すなわち「アリダード」にて諸点を覗き視てその方向を書き、かつ測点よりこの諸点に至る距離を歩度にて測量し、もってこの点の位置を決定するものなり。縦横法は道線の辺上に細部の諸点より下せる垂線の基点を目測にて定めこの垂線すなわち縦線の長さおよびこの基点よりその辺の一端に至る距離すなわち横線の長さを歩度にて測量し持ってこの点の位置を決定するものなり。準線法は未知なるある線の方向に準じて諸点あるいは諸線を決定するものなり。
測手は前の諸行法によって細部の主点を測図す。この点は細部の集団中にある著名なる点にして細部を描画するの標準すなわちその近傍にある諸細部を目測にてこれを総合するを得せしむ者なり。
副手は細部の草図を編成すべし。
携帯図板上に方眼紙を貼付し一二の歩度測量と目測とによって1万分の1の尺なる細部を描書す。この図板には有鉗羅針を付し測図中その方位を規定するの用に供す。
方眼の一辺は0m0075(=7.5mm)にして50複歩に相応するが故に複歩数をメートル数に化することなく直ちに諸距離を描画するを得べし。但し、描書は目測にて行うものなり。
須要なる距離にありてはその複歩数を記す。但し距離を示す方向と直角に数字を列書することに注意すべし。
路上測図におけるがごとく常に離れ来たる所の点を覘視して行進せる方向を書しまた細部を描くの際常に有鉗羅針によって図版の方位を定むべし。

兵要測量軌典. 小地測量之部 - 国立国会図書館デジタルコレクション

小菅智淵について

近代デジタルライブラリの書誌情報では、著者が「小菅//智渕」となっていますが、ここではこれを小菅智淵の誤りと解釈しました。(本当は別の人かもしれません。)
小菅智淵については、以下のページが参考になりました。

上記の本が出版されたのは明治14年で、陸地測量部が発足する明治22年の8年前です。明治14年1884年、小菅智淵が生まれたのは1832年榎本武揚よりも4才年長)のようですので、上に引用した文章は 52 才のころの執筆になるようです。

小菅智淵の性格について

文書を書き下してみて、小菅智淵は測量技術に詳しい、しかもよく気が回る人なのではないかと思いました。プロセス規定の、普通の仕様書をもう一歩踏み込んだような細かい規定がされています。普通「方眼の一辺は0m0075(=7.5mm)にして50複歩に相応するが故に複歩数をメートル数に化することなく直ちに諸距離を描画するを得べし」といったことを仕様に書くのは親切すぎることになります。この本は軌典ということで、おそらくある種の教本なので、このくらい親切に書いてちょうど良いのかもしれません。
それにしても、現場レベルの視点で細かく書ける人だなあと思いました。