「諸元」 の語源

hfu2007-10-24

arton さんの「日々の破片」コメントツッコミ欄で、「諸元」という言葉についての話題がありました:

ということは軍隊用語(ドイツ語のspecification相当の語の訳語あたりかな?)→工場用語として定着→JIS化→少し一般化(=新語←今ここ)という感じみたいですね。

http://arton.no-ip.info/diary/20071018.html#c01

そこで、「諸元」の語源について調べてみました。

「諸元」は明治時代から存在

明治32年偕行社刊行の「独国野戦砲兵射撃学」には、以下のような記述があります。

射撃表その他諸元の測定
射角、偏流、散飛を除きその他の諸元すなわち落角、経過時間及び危険界は弾道表及び弾道学の算式により計算するを得べしといえども、かかる算式の運用は本書目的の範囲外に属するをもって、ただここには既知の射角をもって他の諸元を求める単簡なる2の応用法を示さんとす。

独国野戦砲兵射撃学 第三章 射撃表 第十四款 第十四款 射撃表ノ諸元

ただし、「爾餘」という言葉を「その他」の置き換えました。爾餘の意味は Yahoo! Japan 知恵袋に記載がありました。

このもの以外。そのほか。
「爾余の問題は先送りとする」
「自余」とも書く。

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1312712543

この調査により、「諸元」という言葉は明治から使われていたことが分かりました。(「運用」という言葉も、やはり同じ流れをくむ言葉かもしれません。)

「諸元」は die Spezifikation の訳語のようだ

上記の意味の単語として、「ドイツ語のspecification相当の語」が使われているかどうかを調べてみたところ、オーストリア連邦陸軍の現代のサイトに、以下のような記述がありました。

Internationale Schnittstelle ASCA
(中略)
Das ASCA-Konsortium erarbeitet die operationellen und technischen Spezifikationen für die internationale Zusammenarbeit von Artillerieverbänden.

Bundesheer - TRUPPENDIENST - Ausgabe 5/2006 - Das Elektronische Artilleriefeuerleitsystem (II)

これを訳してみると、以下のようになります。

国際インタフェース ASCA
(中略)
ASCA コンソーシアムは、砲兵部隊による国際的な共同活動のために、運用諸元と技術諸元をとりまとめている。

operationellen と Spezifikationen のつながりなどを考慮して、独国野戦砲兵射撃学の「諸元」は、(現代)ドイツ語の Spezifikation に対応するであろうと結論づけることにしました。

まとめ

「諸元」という言葉は明治に砲兵射撃学の分野で使われており、これはドイツ語の die Spezifikation の訳語である可能性が高いことが分かりました。

諸元という言葉の歴史についての考察

砲兵分野で使われていた諸元という言葉が、そのうち工兵・造兵の分野にも波及し、戦後になって、土木・機械系の分野に転用されるようになったのではないかと思います。この言葉が何らかのきっかけで一般化し、IT の分野でも使われるようになったのではないかと思います。

諸元という言葉の運用および発音についての考察

die Spezifikation には「仕様書」という意味もあります。「仕様書を見せて」というべきときに「諸元をよこせ」と言う言い換えもよいかもしれません。子音 g が入る言葉は、「腹に力が入る」感じがします*1
しかし、一方で、仕様というのは「仕方。方法。(広辞苑)」のことであって「諸元」の持つ「諸数値」というニュアンスとは違ってきている気もしています。

*1:「攻め」を「攻撃」と g を入れて言うのも、「腹に力を入れる」ためであったもしれません。ドイツ語で攻撃は der Angriff と言います。子音 g を入れるという工夫、ひょっとするとドイツ語から軍隊用語への翻訳の作業の中で意識されたのかもしれないと根拠もなく思ったりしました。