ドイツ人は de-facto standard と de-jure standard を一語で使い分ける

hfu2007-11-17

ドイツ人がドイツ語から英語に翻訳した仕様書によると、ドイツ語では de-facto standard を der Standard, de-jure standard を die Normen (pl.) として使い分けるようです。
つまり、ドイツ語を使っていると、自然とデファクトデジュールの区別を考えることになります。

GeoInfoDok を読み始めました

ドイツでの公的な測量・地図作成における地理情報モデリングのドキュメントであるGeoInfoDokを読み始めました。具体的には、英語版の本文(PDF)を読み始めています。おそらく AdV から依託された大手 IT 業者(IBM とかそのあたりではないでしょうか)の担当者さんが書いたものではないかと思われる文体(developerWorks の真面目な記事みたいな文体)で、必要なことが懇切丁寧に書かれている印象を受けます*1

GeoInfoDok 12.1 Technical terms and their English translations から

GeoInfoDok の12.1 に、用語の対訳が記載されています。ここで、面白い記述を見つけたので翻訳して引用します:

ドイツ語 説明 英語
Normen デジュール規格は人間の活動の様々な領域を標準化する。デジュール規格の一つは ISO であり、ISO は多段の策定プロセスの一部としてのいわゆる技術委員会にいる、国際標準化機構のメンバーによって策定された文書である。第211技術委員会「地理情報・地理情報処理」は地理情報を担当している。ISO の文書は成熟度についてのさまざまな段階を通過する。その最終段階は「国際規格」である。詳細については、http://www.iso.ch/ を見よ。 de-jure standards
Standard デファクト規格は広く認められ利用されている文書である。デファクト規格はたいていただ一つの組織により策定される。すなわち、国際的組織を持たない。デファクト規格の拘束性は、個々の組織にとどまることが多い*2デファクト規格は、デジュール規格とは違って、国際的文書として公式に公刊されるというわけではない。デファクト規格には、(DIN や ISO, CEN のようなデジュール規格にあるような)正規の策定プロセスがない。 de-facto standard

説明の中身についてはあとで考えることにして、ドイツ語と英語との語の対応に注目すると、de-jure standards はドイツ語では Normen であり、de-facto standards はドイツ語では Standard であることが分かります。つまり、ドイツ人は de-facto standard と de-jure standard を一語で使い分けるわけです。ドイツ語を使っていると、自然とデファクトデジュールの区別を考えてしまうことになります。
ちなみに、Normen は複数形であり、単数では die Norm です。Standard は単数形で、der Standard であり、手持ちの辞書では、複数形は die Standards です。直感的には、Norm のほうがよりドイツ語っぽくて、Standard は外来語のような感じがします*3 *4

ところで

GeoInfoDoc の英語版、タイプミスが多いところもありますが、それにもまして、ドイツ語と英語の中間言語によるような記述が散見されます。この文書を 100% の英語頭で解釈しようと思っても、うまく解釈できないところがあるかもしれません。英語単語をドイツ語にマッピングした上で、その意味をとると分かってくるところがあります。ドイツ人の英語頭をのぞき見ているようで、面白いです。
ちなみに、ドイツ人はそういう「ドイツ語・英語混濁語」を Dinglish と言うそうです。単語レベルで意味が違う単語については、「和製英語」と似ているかもしれません。しかし、文法が似ている分、Dinglish は英語により深く組み込まれてしまうところが違うかもしれません。

一方、日本では

一方、日本では、JIS 的に「標準化」「規格」という用語はあっても「標準」という用語はないにも関わらず、「地理情報標準」「世界標準」といった言葉がなんとなく使われてしまっていたりします。「標準規格」という言葉もあります。

*1:一方で、ISO の IS の文体は、限られた数・限られた年齢層(多くは実装に関わらない年齢層)・限られた分野の専門家が口を出した結果、技術的に玉虫色の記述になったり、厳密な記述と漠然とした記述が混在する、という印象を受けます。

*2:拘束力の源泉・根拠が個々の組織にとどまるという意味か、拘束の範囲が個々の組織にとどまるという意味のいずれかであると思われます。

*3:例えば、die Norm は動詞形 normen や normieren、名詞形 die Normierung や dir Normung を持ちますが、der Standard のほうは、そのような融通無碍な変化を起こしません。

*4:ジーニアス英和大辞典の standard の項を見ると、stadard は古フランス語 estandard が語源と書かれていますので、ドイツ語でも der Standard は外来語ではないかと思います。